今日のTIps

こういう風に書くと,プログラミングTipsやら,MacOSのTipsに思えるでしょ.違います,数学のTipsです.
あるHilbert空間Xの部分空間Yが,Xの中で稠密であることを示したいとします.このとき,素朴に思いつくのが,Xの勝手な元fを持ってきて,Yの元の列で,fに収束するようなものを作ってみせるという手.

しかし,Hilbert空間だともう一つ手があるんですな.

「f⊥Y ならば f=0」を示す.

f⊥Yというのは,Yの全ての元がfと直交するということ.証明は関数解析の本に載っています.

実はこっちのほうが結構楽なことがある.今日のセミナーででてきたのが以下のような問題.

XをHilbert空間として,\{\psi_n(x)\}Xの(正規直交とは限らない)完全系とする.このとき,部分空間
M=\{f \in L^2(0,T;X)\,;\,\exist n\,\mathrm{s.t.}\,f(t,x)= \sum_{l=1}^{n} c_l(t)\psi_l(x),\, c_l(t) \in L^2(0,T)\}
は,L^2(0,T;X)の中で稠密である.

略証:f \in Xを, f \perp Mとなる元であるとする.すると特に,任意のnと,c \in L^2(0,T)について,
(f,\,c\psi_n)_{L^2(0,T;X)}=0
である.今,形式的に,c=\delta(t-t_0)\,(t_0 \in (0,T))と置いてみると,上の式は,
(f(\cdot,t_0),\,\psi_n)_X = 0
と書ける.完全性より,f(\cdot,t_0)=0が言える.t_0 \in (0,T)は任意だから,結局f=0である.よって結論を得る.

今,L^2(0,T)で考えているので,delta functionをとることはできないが,その場合はdelta functionへの近似列をとればよい.

正規直交とは限らない完全系なので,\{\psi_n(x)\}で張られる部分空間がXで稠密であることは言えても,そのときXの元が一意的に展開できるかどうかはわからないわけです.だから,素朴に近似列を作りにくい.こういうときに使える手です.

当たり前なことですが,効力は大きいですよね,これ.